不可能といわれたパーマへの挑戦
「パーマ液を弱酸性にするなんて絶対に無理。
太陽を西から昇らせるのと同じことですよ」
髪の毛の組織を簡単にくずすことができるアルカリ性でなければ
パーマはかからない
それが当時のパーマ業界の定説でした。
髪や皮膚に最適なパーマを作りたい
生理的中性点に着目して実験と研究を続けてきたのですが
化学的な薬剤の調合などとはまったく無縁です。
シャンプやパーマ液を作っている専門家がはっきりそういっているのに
化学にはまるで無知な美容師が
たった一人で弱酸性パーマを開発するのはあまりにも無謀な挑戦でした。
それに仕事を放って研究に没頭するわけにもいきません。
美容室にはたくさんのお客様が来るし
従業員も抱えているのです。
毎日髪を逆立てて無我夢中で毛髪の研究に取り組んでいる山崎伊久江の姿を見て
「美容師はお客様の気に入るヘアスタイルを作ってあげればしれでいいんじゃないの。
あなたはいい腕を持っているのだから、そんな難しい研究はおよしなさい」と
親身に忠告してくれる人もいました。
自身、「なぜ私はこんなに苦しんでいるのだろう。
もうこんな研究はやめてしまおう
美容師は美しいヘアスタイルを作る技術だけに打ち込んでいればいいんだ」と
何十回思ったかしれないといいます。
でも、挫折せずに続かられたのは、
「おまえはお客様の老化現象促進に手を貸す美容師でいいのか」という
美容師としてのプライドでした。
このように弱酸性パーマ液を模索する実験は
失敗と成功を繰り返し、十数年後、やっと完成一歩手前のところまでこぎつけました。
ところが、そんなとき耳を疑うようなニュースが飛び込んできたのです。
それは当時フランスでも弱酸性パーマ液の開発が進んでおり
それが成功しそうだという情報でした。本当なのだろうか。
それではいままで自分がしてきたことが無駄になってしまう・・・・
弱酸性の研究はどこまで進んでいるのだろうか。
製品開発の現状はどうなっているか。いても立ってもいられません。
なにせファックスもインターネットもない時代です。
真相を知るには実際に行って確かめてくるしかありません。
「酸性ではパーマウェーブは不可能だ」という美容界の定説に
挑戦し続けてきた苦難の研究生活が吉と出るか、凶と出るか
矢も盾もたまらず、有り金をかきあつめパリに旅立つたのです。
こうしてパリを本拠地に三ヶ月ほどヨーロッパに滞在し
ドイツやイギリスにも足を運びました。しかし、フランスへ来てみると
日本であれほど心配していたことがまったく杞憂だったとわかったのです。
イギリスでもスイスでも、「なに、日本から来て、いまごろ弱酸性パーマの研究だって?
酸性ではどうしたってパーマはかかりませんよ。
さんざん研究を重ねた末に、酸性では絶対パーマはかからないという結論が出ているんだから」
そりゃ、酸性のパーマがあれば髪は傷まないはずだし、体のためにもいいだろう。
でも、それは無理なんですよ。酸性の薬液では、どうしても髪にウェーブをつけることができない。
気の毒だけど、あきらめたほうがいいでしょう」
それを聞いて、山崎伊久江はがっかりするどころか胸がはずみました。
なぜならこの時点で
弱酸性パーマ液の開発はまだ世界のどこでも成功していない
前人未踏の価値ある仕事だという確認が取れたのですから。
その上、ヨーロッパ滞在中に、弱酸性パーマ液の開発を断念した化学会社から
膨大な量の毛髪に関する資料を手に入れることができました。とりわけラッキーだったのは
十年前に終わったという弱酸性パーマに関する研究の一切をまとめた資料が
ちょうどでたばかりだったことです。